従来の言語学習法vs現代的アプローチ:なぜ行動主義的教授法は効果的でないのか

英語教育において、長年にわたり「行動主義的アプローチ」が主流とされてきました。特に日本の学校教育では、この方法が現在でも広く採用されています。しかし、言語習得に関する研究の進展により、この従来の方法には多くの問題があることが明らかになっています。

以下、従来の考え方とその問題点を詳しく見ていきましょう。

1. 「言語は習慣形成によって学ばれる」という考え方

従来の考え方が間違っている証拠:

  • 子どもたちは一度も聞いたことのない文を自然に作り出せる
  • 学習者のエラーパターンは単なる習慣形成では説明できない
  • 幼い子どもでも、教わっていない複雑な文法規則を理解できる
  • チョムスキーの研究により、人間は習慣化されていない新しい文を即座に理解・作成できることが証明されている

2. 「学習は刺激-反応パターンで起こる」という考え方

この考え方の誤り:

  • パターンプラクティスで優秀な生徒でも実際のコミュニケーションでは苦戦する
  • 脳画像研究により、言語処理は単純な刺激-反応ではなく、複雑な神経ネットワークを使用することが判明
  • 学習者は練習したことのない状況でも言語を理解・使用できる
  • 無限の文章パターンは刺激-反応theory では説明不可能

3. 「エラーは悪習慣を防ぐため即座に訂正すべき」という考え方

この考え方が誤りである証拠:

  • 研究により、過度の訂正は不安を高め、コミュニケーション意欲を低下させることが判明
  • Truscott(1996)の研究では、エラー訂正は言語習得にほとんど影響を与えないことを示している
  • 母語を学ぶ子どもは多くのエラーを犯すが、自然に修正していく
  • 「沈黙期」の学習者も、発話がなくても言語を習得している
  • エラー訂正は長期的な改善につながらないことが多い

4. 「反復練習が重要」という考え方

この考え方の問題点:

  • ドリル学習で成績優秀な学生も実際のコミュニケーションで躓くことが多い
  • 長期研究により、ドリル中心の学習者は自然なインプットを受けた学習者より習熟度が低いことが判明
  • 脳科学研究により、記憶形成には意味のある文脈が重要だと判明
  • ドリルで学んだスキルは実際の場面で応用できないことが多い

5. 「言語は条件付けできる習慣の集合体」という考え方

この考え方が誤りである証拠:

  • 人間は初めて遭遇する文を理解・作成できる
  • 言語習得は条件付けに関係なく、予測可能な段階を経る
  • 幼い子どもでも創造的な言語使用が見られる
  • 第二言語学習者は、教授法が異なっても似た習得パターンを示す

6. 「学習は模倣と強化で起こる」という考え方

この考え方の誤り:

  • 子どもは聞いたことのない文法形式を生成できる
  • 学習者のエラーパターンは模倣では説明できない
  • 研究により、理解可能なインプットへの単なる接触でも習得が進むことが判明
  • 強化に関係なく、自然な習得順序が存在する

7. 「母語は第二言語学習の妨げになる」という考え方

この考え方が誤りである証拠:

  • 研究により、母語が第二言語習得を支援することが判明
  • 普遍文法の研究により、言語能力に共通の基盤があることが示唆されている
  • 言語転移にはポジティブな面もある
  • バイリンガルの子どもは認知能力が向上する

8. 「文法の明示的な指導と暗記が重要」という考え方

この考え方の問題点:

  • クラッシェンの研究により、明示的知識は暗示的能力に変換されないことが判明
  • 文法重視のアプローチと理解可能なインプット重視のアプローチを比較した研究では、後者の方が効果的
  • 文法指導に関係なく、自然な習得順序が存在する
  • 生徒は規則を「知って」いても実際のコミュニケーションで使えないことが多い

9. 「言語産出を通じて学習が進む」という考え方

この考え方が誤りである証拠:

  • 沈黙期の研究により、産出前でも習得が進むことが判明
  • 第一言語でも第二言語でも、理解は産出に先行する
  • 早期の産出強制は不安を高め、習得を遅らせる可能性がある
  • リスニング・リーディングだけでも言語習得が進むことが研究で示されている

日本の英語教育への示唆


  1. 何年も英語を学習しても、基本的なコミュニケーションが困難な学習者が多い現状を考える必要があります。



  2. より現代的なアプローチを採用している国々(北欧諸国など)の方が良い結果を出しています。



  3. 自然なアプローチで学んだ生徒は、長期的な研究において従来型の教育を受けた生徒より良い成績を収めています。



  4. 行動主義的な方法は、日本人学習者の英語恐怖症の一因となっています。


実践的な証拠

以下の点から、現代的なアプローチの優位性が確認できます:

  1. 自然なアプローチと従来型の教室での試験スコアの比較
  2. 異なる教授法で学んだ生徒の実際のコミュニケーション能力の比較
  3. 日本人学習者の英語能力を他国と比較した研究結果
  4. 自然なアプローチで学んだ生徒の方が自信を持ってコミュニケーションを取れることを示すデータ

まとめ

従来の行動主義的アプローチには多くの問題があることが科学的に証明されています。より効果的な言語習得のためには、現代的な教授法を採用することが重要です。ただし、日本の教育文化を尊重しながら、段階的に新しいアプローチを導入していくことが望ましいでしょう。

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